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オーディオブランド探求 ~TANNOY~


Guy R. Fountain

イギリスのスピーカーの名門「TANNOY」の歴史は、1900年ひとりの人間の誕生から始まります。彼の名前はガイ・ルパート・ファウンテン。のちに名門タンノイ社を興す人物です。

1926年、ファウンテンは交流を直流に変換する電解整流器を完成させます。そこでこれを製造するために「タルスメア・マニュファクチュアリング社」を設立します。場所はロンドンのウェスト・ノーウッドにあるタルスメア・ロードという通りに面したガレージの2階でした。それと同時に励磁型ダイナミックスピーカーの製造も始めます。

1932年、社名を「ガイ・R・ファウンテン」社に変更して「TANNOY」を登録商標します。タンノイの由来は、当時の主力製品であった電解整流器の金属電極材料「タンタル(Tantalum)」と「鉛合金(lead alloy)」を結びつけた造語です。これは音とは全く関係がなく、創業者の名前とも無関係という珍しいブランド名と言えます。

Autograph

1947年、ウーハーの中心にツイーターを挟み込んだデュアルコンセントリックユニットを開発して、以後代表的な製品となります。この初代のユニットはのちに「モニター・ブラック」と呼ばれます。

1953年、アルニコマグネットを採用したデュアルコンセントリックユニットLSU/HF/15が開発・発売されました。磁気回路カバーの色が銀色だったため、「モニター・シルバー」と呼ばれました。またこのユニットを使ったスピーカーシステム「オートグラフ」が発売されました。背丈が150㎝以上ある大型のスピーカーで、フロントショートホーンと背面はバックロードホーンのオールホーンシステムです。エンクロージャー内部はかなり複雑な折り曲げホーンとなっていて、350Hz以下30Hzまでを背面の折畳ホーンが受持ち、350Hzから1kHzまでをスピーカーの正面のショートホーンが受持ち、1kHz以上はホーントゥイーターが受持つという3つのホーン構造によって構成されています。

五味康祐邸のリスニングルーム

オートグラフを日本で最初に導入したのは、1964年に個人輸入をされたという作家の五味康祐氏です。五味康祐氏はその著書「西方の音」の中で、オートグラフについて次のように述べています。
「こんなにみずみずしく、高貴で、冷たすぎるほど高貴に透きとおった高音を私は聞いたことがない。」「今、空気が無形のピアノを、ヴァイオリンを、フルートを鳴らす。」
「ステレオサウンド」誌のレギュラー執筆者で、音楽批評の分野でも確かな見識をもっていた岡俊雄氏は、五味邸のオートグラフの音に触れ、「これまでに聴いたどのオートグラフよりもいい音で鳴っていた」と書き残しています。五味邸のリスニングルームは天井も高く、広さも写真を見る限り25畳くらいありそうで、このスピーカーの場合はこれくらいのスペースがないと難しいのではないかと思います。


1957年にスピーカーユニットの設計変更がありまして、磁束密度と耐入力の向上が図られました。マグネットカバーの色が、赤みがかっていたので「モニター・レッド」と呼ばれました。五味氏が導入されたオートグラフもモニター・レッドでした。この翌年1958年にシュリロ貿易からタンノイの輸入業務が始まります。その後1961年に「レキュタンギュラーヨーク」と10インチユニットを搭載した「ⅢLZ」が登場します。
1967年にトランジスターアンプへの対応として、ユニットのインピーダンスが16Ωから8Ωへと変更になり、マグネットカバーの色もゴールドになって「モニター・ゴールド」と呼ばれました。

Westminsterの内部構造

1974年、大きな事件が起きます。タンノイの工場で火災が発生して、コーン紙の工場が全焼してしまいました。再起不能かと思われましたが、西ドイツのクルトミューラー社の協力により新しいコーン紙を使ったユニットを開発しました。クルトミューラー社のコーン紙は従来のタンノイのコーン紙より薄かったため、背面に補強のリブを8本張り付けて強度をアップさせました。このユニットがHPD(High Performance Dual concentric)シリーズで、この時代の最後のアルニコユニット・シリーズとなりました。
この頃、創設者のガイ・R・ファウンテンは心臓を患い引退を決意します。そして自社株をJBLも傘下に持つハーマン・インターナショナルに売却しました。しかし1978年、ノーマン・クロッカー氏を中心とする新経営陣がアメリカから自社株全てを買い戻して、イギリス資本のタンノイとして再スタートを切ります。そして誕生したのが、創業者をインスパイアした「G.R.F. Memory」とオートグラフの現代版と言われる「Westminster」です。

G.R.F. Memory

ウェストミンスターの内部構造はオートグラフとよく似ています。使用ユニットは3839Wというフェライトマグネットのユニットです。新機能として、ロールオフとエナジーの調整が可能です。ロールオフ調整は5kHz以上の高い周波数を+1.5dBから-3dBの範囲で4段階に増減でき、エナジー調整は1kHzから20kHzまでのトゥイーターのレベル全体を±3dBの範囲で5段階に増減できます。

G.R.F.Memoryはガイ・R・ファウンテンが残したスケッチを基に、T・B・リビングストンとR・H・ラッカムが誕生させたフロア型スピーカーシステムです。スピーカーユニットはクラシックモニターの血統である38cm同軸型ユニット 3839Mを搭載しています。エンクロージャーにはウォルナットの無垢材をふんだんに使い、容積220Lのバスレフ型として、前面バッフルにはコルク材が貼られており、共振を防いでいます。前面バッフルのネットワークプレートには「ファウンテンよ永遠に」という願いが込められ、イギリスの地図と、R・H・ラッカムの献辞「私は、ファウンテンから音の心を教えられた」の刻印がされています。

Westminster ROYAL


ウェストミンスターは1987年にWestminster/Rに、1989年にWestminster/ROYALに進化しました。15インチデュアルコンセントリックユニットながら、従来のアルニコマグネットの3倍の磁気エネルギーを持つALCOMAXⅢマグネットを採用しています。エンクロージャーは高密度17層のバーチ(樺)材で構成し、さらにウォルナットの無垢材とバーウォルナットを使用した仕上げとなっています。そのため外形寸法はほとんど変わりませんが、重量は25kg増えて140kgとなりました。

Autograph Millennium

一方、オートグラフは2001年にオートグラフ・ミレニアム(Autograph Millennium)が限定生産されました。オリジナルより分解能を向上させるため、スピーカーユニットのコーン紙及びALCOMAXⅢアルニコマグネット磁気回路、金メッキ・ラッピング仕上げのトゥイーターホーン、バーチ材積層合板によるエンクロージャーなどが採用され、単なる復刻ではない現代オーディオに対応したモデルに仕上がっており、質量もオリジナルの85kgを遥かに超えた101kgとなっています。

その後もタンノイはPRESTIGEシリーズとして、このデュアルコンセントリックユニットをその時代に合わせてリファインしながら、外観はほとんど変えることなく現在まで生産し続けております。また1976年に発売した「Arden」「Cheviot」「Eaton」は2018年にスピーカーユニットをリファインして、LEGACYシリーズとして復活しました。こうした過去の製品を最先端の技術でアレンジしていくタンノイ社のモノづくりのスタンスは、いかにも伝統の国イギリスらしい合理性のある方法だと感心するとともに、こうした伝統をこれからも大切に守っていくことができれば本当に素晴らしいことだと思います。