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Phasemation EA-550 試聴記


フェーズメーションの緑川氏から、「フォノイコライザーアンプ、EA-550のデモ機が空いているので聴いてみませんか?」というお誘いを受けましてここしばらくEA-550を聴いております。

フェーズメーション・ブランドを主宰している協同電子エンジニアリング㈱という会社は、なかなかユニークな会社です。もともとは電子計測機器のOEM生産と、カーエレクトロニクスの設計開発を行う㈲協同電子システムが母体となって発足しています。その後1990年代にはMCトランスやD/Aコンバーター等のOEM生産を始めます。そして2002年に自社のオーディオブランド「Phase Tech」を立ち上げて本格的にオーディオ機器の製造販売を始めます。2004年に協同電子エンジニアリング㈱として組織変更をして、2010年にはブランドを「Phasemation」に改め、現在に至っています。

フェーズメーションのキーパーソンは、創業者であり協同電子エンジニアリング㈱の取締役会長の鈴木信行氏です。もともとアイワの技術者であった鈴木会長は自社ブランドを立ち上げることは長年の夢だったようです。しかもハイエンドに特化して、アナログ系と真空管を中心にラインナップしています(過去にはD/Aコンバーターも手掛けておりましたが)。
今回試聴させていただくフォノイコライザーアンプだけでも下は9万円から最上位モデルが300万円まで6機種もラインナップしているという、普通のメーカーだったらありえない構成です(笑)。その他カートリッジや昇圧トランスでも豊富なライナップを有しているのは、ひとえに鈴木会長のアナログレコードに対するこだわりだと理解していますが、その思いはハンパないものがあるようです。フェーズメーションのウェブサイトの中に「会長のコラム」というものがあり、オーディオ機器を手掛けだした2001年から始まって現在まで、何と222ものコラムが記載されています。その内容はオーディオのテクニカルな話と演奏会の話が中心ですが、なかなかマニアックな内容で面白いので皆様も是非ご覧になってみて下さい。

EA-550

その中から中間機種、といってもかなりの高額品ですが、EA-550(600,000円)を聴かせていただきました。当店の展示品のEA-350(390,000円)との違いは筐体が2つに分かれてモノラル構成になっていることです。フォノイコライザーのモノラル構成はどれくらいのメリットがあるのか検証してみました。

EA-350は落ち着きのある音色で、穏やかで聴き疲れしないところが魅力です。といっても解像度が低いわけでもなく、音の粒立ちも悪くないと思っていました。しかしEA-550を聴いてしまうと音数も多くて、一つ一つの音の存在感がものすごく、ブリリアントな輝きを伴って、音楽全体のエネルギー感の強さを感じます。特に最新録音で優秀録音盤あたりを聴くと、そのリアリティの高さに驚きを禁じえません。やはりL/R完全独立の2筐体構造、つまり電源部・MCトランス・イコライザー部が筐体を含めて左右完全に分離していることと、MCトランスの2次巻線材にPC-TripleCを採用しているところなどが貢献しているのでしょう。まさに上には上があるということを思い知らされました

もう少し掘り下げてみたくて、自宅でよく聴いているレコードを持ってきて聴き比べてみました。
用意したのはマンハッタン・トランスファーの「EXTENTIONS」、佐山雅弘の「PLAY ME A LITTLE MUSIC」、土岐英史&サンバフレンズの「BRASIL」の3枚です。
「EXTENTIONS」は、CDが世に出る前でアナログレコードが試聴盤だった時代にデモディスクとして頻繁に使っていた優秀録音盤です。男女4人のヴォーカルグループで、ハーモニーが素晴らしいのですが、そのハーモニーがEA-550のほうが滲みが少ないですね。スタジオの空気が一気に浄化された気がします。
「PLAY ME A LITTLE MUSIC」は、アルバムとしてはご存じない方も多いと思いますが、私はジャズピアニスト佐山雅弘の代表作だと思っています。ピアノトリオの演奏でドラムスは村上ポンタ秀一が叩いています。1986年の録音で特段の優秀録音盤ではありませんが、ピアノトリオの演奏の他に、ウッドベースとのデュオやピアノソロもあり、まとまりのいいアルバムです。このアルバムが後のPONTA BOX結成へとつながっていきました。残念ながら佐山雅弘は2018年11月に64歳で逝去してしまいましたが、本当に惜しい方を亡くされたと思います。このピアノトリオの演奏でも音の粒立ちがはっきりして、音離れの良いクリアなサウンドが楽しめます。
「BRASIL」はジャズサックス奏者の土岐英史がブラジル音楽に本格的に取り組んだアルバムです。また松岡直也&ウィシングのメンバーで活躍したり、続木 徹や山岸潤史らとフージョングループCHIKEN SHACKを結成するなど、現在も注目のジャズメンです。サンバのリズムやバツカーダ(打楽器のみの演奏)など中南米音楽独特のリズム感が心地良く、ここでも音離れの良さが際立ち、乾いたリズムが音楽を楽しくしてくれます。最後に収められている「ミーニャ・サウダージ」は哀愁を帯びた美しいアルトサックスの音色が心に響きます。

EA-550 リアビュー

なお最近はフォノ入力にバランス受けができるものが増えましたが、EA-350/EA-550もバランス入力がありますので、店頭にあるOrtofon の6NX-TSW1010Bを使ってそちらの比較もしてみました。フォノカートリッジは左右の信号線と、同じく左右に分かれたアース線の計4本のリード線でつながれたバランス接続になります。これをそのまま利用してバランスケーブルで伝送しようとしたものがフォノバランス接続となります。しかしOrtofon 6NX-TSW1010BとLUXMAN PD-151の純正フォノケーブル(アンバランス)では線材に結構な違いがあり、バランス/アンバランスの違いよりもケーブルの線材の違いのほうが大きくて、よくわかりませんでした。そこでアコースティック・リバイブのフォノケーブル(ANALOG-1.2TripleC-FM)でバランスとアンバランスのケーブルを用意して比較をしてみました。
バランス端子の方は静寂感やSN感があってクリアでキレのある感じでした。一方アンバランス(RCA)端子の方は音が太く厚みがありますが、音のキレは後退する印象でした。わかりやすく言うとバランス端子はデジタル的なサウンドになるのに対して、アンバランス端子は従来のアナログサウンドという感じでしょうか。現代のアナログレコード再生において、最新のオーディオが再現する音楽はノイズ感が少なくクリアな音が楽しめますが、特にMCカートリッジは発電コイルのプラス側もマイナス側もアースから完全にフローティングされているバランス型のため、バランス伝送のほうが有利ということはあると思います。

さてここからはアナログ総論的になっていきますがお付き合いください。
ここ数年はアナログレコードがブームで、趣味のオーディオの世界もプレーヤー本体に限らず、カートリッジ、トーンアーム、そしてフォノイコライザーアンプ等も様々な製品が発売をしていて市場をにぎわせています。オーディオは元々こだわりの世界ですが、その中でもアナログレコードの世界はかなりディープな世界です。カートリッジやトーンアームを含まないプレーヤー本体のみで5000万円もする製品(しかも日本製!)が出ているくらいの、尋常じゃない世界まであります(笑)。そこまで情熱を駆り立てる魅力を、アナログレコードは内包しているのは間違いないと思いますが、誰でもが到達できる世界ではないことも事実です。初心者向けの1万円くらいの製品から5000万円(周辺機器まで加えれば6000万円くらい?)までの、このダイナミックレンジの広さがこの世界の奥の深さを表しています。しかし我々一般庶民としてはそんな世界があることは理解しつつも、ご自身のできる範囲内で現状よりもよりクオリティの高い再生を目指すことが重要なのかなと思います。

アナログレコードの世界は上を見ればきりがないですが、実際カートリッジやリード線を変えただけでも音の変化が味わえる、面白い世界です。この辺りはそれほどの投資をしなくても音の違いを味わえる身近な存在です。ここがアナログレコード再生の第一歩です。ここから先はそれぞれのリスナーのこだわりと探求心によって進む道が変わってきます。といっても趣味の世界ですからこれが正解というものはありません。それでもご自分で好みの方向を見つけて、その道を突き進んだその先には、そのご本人にしか出せない独自の音楽表現の世界があるはずです。それはご自身では分かりにくいかも知れませんが、同じ趣味を持つ仲間の方ならその違いを敏感に感じ取るはずです。

この感覚の違いこそがそれぞれの好みの違いと相まって、俗にいう「音は人なり」といわれる個人のレコード演奏の個性となって再現されます。オーディオ好きの仲間の音を聴くという行為は、ややもすると独りよがりになりがちな自分のシステムの音に思わぬ「客観性」を目覚めさせてくれるものです。健全なオーディオを楽しむためには仲間のチカラも必要なんですね。

こうしたそれぞれの個性の違いが、より色濃く出やすいのがアナログレコードの世界だと思います。それはなぜかというとレコード再生において音が変わる要素が非常に多く存在するからです。プレーヤー本体はもちろん、カートリッジから始まってヘッドシェル・リード線・ディスクスタビライザー・トーンアーム・フォノケーブル・昇圧トランス・フォノイコライザーアンプなどアンプに接続するまでの間に介在するものが多いことと、扱う信号レベルが非常に小さいため、音に影響が出ることが多いのです。逆説的に考えればそれだけ音質向上を図れる部分が多く、自分の個性を出しやすいとも言えます。

そんなアナログレコードの世界も、今の若い人にとっては黒い円盤を針がトレースして音が出ることが新鮮な感覚のようです。こうした次世代のオーディオ愛好家のために具体的な目標ができるような商品ラインナップがほしいところです。現在は趣味のオーディオを楽しむ方が減少してきているので大量生産・大量販売は難しいと思いますが、それでも段階を踏んでステップアップできるような仕組みや工夫が必要でありましょう。当店としてもそうした若い世代の方々のお役に立てるようなお手伝いは積極的に取り組んでいきたいと思いますのでよろしくお願いいたします。
追伸:
ドラマーの村上ポンタ秀一氏が、視床出血のため3月9日に逝去いたしました。
謹んでご冥福をお祈り申し上げます。