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オーディオブランド探求 ~B&W~


バウワース&ウィルキンス・ラジオストア

今やJBLと肩を並べるほど存在感の増したイギリスのB&Wですが、その始まりは第2次世界大戦終了後の1945年にクラシック音楽ファンのジョン・バウワーズが親しい友人のロイ・ウィルキンスと共同で始めた「バウワース&ウィルキンス・ラジオストア」という電気店でした。オーディオとテレビなどの家電の店でしたが、クラシックの生演奏を聴きなれていたバウワースにとっては店頭で鳴らしているスピーカーの音質に不満を感じていました。
そこで自力でスピーカーを開発しようと1960年頃から友人のピーター・ヘイワードと一緒に店裏のガレージで作業を始めます。そして1965年に2ウェイスピーカーシステムP1を完成させてラジオストア内で販売を始めます。P1は顧客の高い評価を受けたため、第2弾のP2の開発に着手します。その一方でP1の販売が順調に進み、中古のペンレコーダー付きの測定器を購入し、その後のスピーカーには1台1台に実測データを付けて販売をしました。その頃オーディオに熱心な顧客の中にキャサリン・ナイトという老婦人にP2を聴かせたところ絶賛したが、ほどなくして体調を崩してなくなってしまいます。その際に「このお金でスピーカー事業を始めるように」という遺書を残して10,000ポンドをバウワースに寄贈をしました。そのお金を基に1966年、現在のB&Wグループの基になるB&Wエレクトロニクスを立ち上げます。

DM6

1974年、防弾チョッキに使われるデュポン社の高張力繊維ケブラーの敷布を振動板に使ったケブラーコーンスピーカーユニットを開発して特許を取得します。このユニットを使って、各ユニット間の位相を合わせるリニアフェーズ構造としたスピーカーシステム、DM6が1975年に発売になります。DM6のデザインを手掛けたのは著名なインダストリアル・デザイナーのケネス・グランジ卿でした。その個性的な外観から「妊娠したペンギン」というニックネームが付きました。
このDM6 でバウワースはツイーターのバッフル版の弊害に気が付きます。波長の短いツイーターにバッフル版があると反射や回折が発生して位相を乱すことを発見し、ツイーターユニットを単独でキャビネット上部に載せたDM7を開発して1977年に発売します。

801

この頃からB&Wはレコード会社や放送局向けのモニタースピーカーの開発を続けていました。そして1979年に3ウェイモニタースピーカーの801を発売します。この数字の意味は「1980年代で1番優れたスピーカー」という意味が込められているようです。801はタイムアライメントを考慮した配置と、ツイーターだけでなくミッドレンジも独立筐体として密閉型のウーハーエンクロージャーの上に載せられました。ミッドレンジのキャビネットも角を落として回折がスムーズになる工夫をしています。801のデザインもケネス・グランジによるもので、その見た目から「雪だるま」というに行くネームが付けられました。この年の年末にはミッドレンジキャビネットの巣材を木からファイバークリートに変更した801Fに進化しました。この801シリーズはモニタースピーカーとして大評判を呼び、ヨーロッパのクラシック系録音スタジオでは圧倒的なシェアを誇りました。
その後1987年にこのシリーズはウーハーエンクロージャーの剛性アップのためマトリックスハニカム構造と、ツイーター振動板をメタルドームとしたMatrix801 Series2へと進化して、最終的には1992年にスピーカー保護回路APOCを外してネットワークをシンプルにしたSeries3まで進化して現在の800シリーズへとつながっていきます。


Nautilus

B&Wはその歴史の中で数多くのアイディアと技術を駆使して、従来の形にとらわれないある意味「奇抜」なデザインのスピーカーを何点も世に出していますが、このスピーカーほど奇想天外なデザインで、一方で非常に理にかなっているものはないと思います。その名はノーチラス(Nautilus)。このスピーカーのコンセプトは➀エンクロージャー(バッフル面)をなくす②スピーカーユニットの背面の音を消すというものでスピーカーユニットの前面の音だけを抽出することに徹した作品です。4個のスピーカーユニットの後ろには長細いテーパー状のツノが伸びていて、スピーカーユニットの裏側から放出される音(背圧)を消し去る消音構造となっています。口径の大きなウーハーユニットでも構造は同じで、まっすぐに伸ばすと3mもの長さになって部屋に入らないため、くるくると巻いた構造になっています。それともう一つ重要なメリットとして各スピーカーユニットをフローティングマウントにしてフランジをなくしてバッフル面を最小にしたことで、音の回折を防いでユニットが宙に浮いた状態を作りだしていることです。この奇抜で美しいスピーカーシステムを支えるベースはコンクリート製で、重さ50kgです!
この設計はローレンス・デッキーで、801でウーハーエンクロージャーのマトリックス構造を考え出した人です。デッキーは様々な実験を重ねて、エンクロージャーのない音で振動板に排圧のかかっていない音の歪の少なさと音ヌケの良さを確認します。ここまでの開発に5年を要し、現在の形に近づいてくると、インダストリアル・デザイナーのケネス・グランジも参加してあの優雅な流線型のフォルムが1993年に完成しました。しかしこのスピーカーは4ウェイのマルチアンプ駆動が前提で、専用のチャンネルディバイダーが付属しています。全帯域が消音構造のため、特にウーハー領域では音圧がダラ下がりに落ちるのでチャンネルディバイダーで低域補正をかける必要がありました。日本国内では1995年に発売開始になりましたが、1セット500万円(専用チャンネルディバイダー付属)と高額で、4チャンネル分のパワーアンプも用意しなくてはならず、導入のハードルは高いものになりました。ちなみにノーチラスは現在でも生産されており、その価格はスピーカー本体のみで1セット1,100万円です。

GIYA G1と内部構造

ノーチラスのサウンド・インプレッションは、オーディオ評論家の傅 信幸氏がステレオサウンド誌の中でその印象を語っていますので引用させていただきます。ちなみに傅 信幸氏はその後、ノーチラスをご自宅に導入されました。
「ステレオイメージは広く、奥へ深く、音像は強く実態感を伴う。スピーカーの振動板に排圧をかけずに鳴らすことが、こんなにも異次元の音とステレオイメージを聴かせるのだ。中空に浮いた振動板から音を聴くという前人未到の夢がノーチラスで現実のものとなったのである。」(ステレオサウンド誌116号より)

ちなみに設計者のローレンス・デッキーはその後B&Wを去り、自身の開発したノーチラスの更なる理想形を求めて2001年にVIVID AUDIOを設立します。その後発表したノーチラスの現代版のGIYA G1は全帯域消音構造としながら、ウーハー帯域はバスレフ方式として低域補正を必要とせず、内蔵ネットワークによる帯域分割で、マルチアンプ方式から脱却しました。なお、GIYA G1のエンクロージャーは両側に装着したウーハーユニットのバスレフキャビネットとなり、上方へ向かって円を描きながら細くなっていき、テーパーチューブの役割を果たして消音していきます。

Nautilus801

ノーチラスの製品化によって得られた技術的革新は、今後のB&Wスピーカーの開発に計り知れない影響を与えました。そして従来の801モニタースピーカーの後継モデルのミッドレンジとツイーターに消音構造のユニットを組み込もうと考えました。
1998年に登場したそのスピーカーはNautilus801という型番でデビューします。ツイーターユニットは同じ消音構造で、ミッドレンジは球体のポリエステル樹脂成型エンクロージャーを後ろに伸ばして消音構造としたチューブ構造になっております。球形エンクロージャーとしたのはチューブの長さを短くしたかったのだと思います。おかげで見た目はヘルメットが乗っているような感じで違和感がありましたが、音はボックスのエンクロージャーと違ってピュアな音でした。15インチウーハーはバッフル面の幅を最小限に狭めて、後方をラウンドさせて音の流れをスムーズにしています。エンクロージャー内部はマトリックス構造で強度を確保しています。

そして2005年に800Dシリーズへと進化して、この時初めてツイーターユニットの振動板に人工ダイアモンドが使われました。ウーハーユニットの材質もペーパーケブラーからロハセル(硬質の発泡コアをカーボンファイバーのスキンではさんだもの)に変更になっています。その後2010年に全機種のツイーターにダイアモンド振動板を採用した800Diamondシリーズが登場します。この時にツイーターとウーハーユニットのマグネットの素材がネオジム(ネオジウム)に変更になっています。

800D3

そして2015年、800シリーズは大きな変革の時を迎えます。先代から引き継いだものはツイーターだけという大幅なブラッシュアップは、型番こそ受け継いでいるものの全くの別物ととらえてもいいくらいの変貌ぶりです。一番の変更点はミッドレンジの振動板です。
40年近く使い続けてきたケブラーコーンは「コンティニュアム・コーン」に変わりました。
この素材はB&Wで70回もの試作と8年の研究期間をかけてオーディオ専用に開発したコーン紙(布)で、手にすると驚くほど柔軟で軽い素材です。化学合成繊維を織ってシート状にしたもので、銀色に見えるのは表面にアルミコーティングを施しているためとのことです。このミッドレンジユニットを取り付けるキャビネットは「タービンヘッド」と名付けられ、アルミニュウムの成型品で、内部にラジアルフィンと呼ばれる放射状の補強がされていて鳴きの少ない頑丈な造りです。また上位3モデルはリバースラップと言って、前面をラウンドさせ背面を平面とするエンクロージャー・デザインを採用して、正面は継ぎ目のないラウンドバッフルとなりました。その他ウーハーユニットやネットワーク、マトリックス構造や台座の構造や素材など、新設計と言ってもいいくらいの変貌を遂げた800D3シリーズは、その充実の内容と引き換えに、かなり高価な製品となりましたが、いまや世界のハイエンドスピーカーのベンチマーク的存在となっております。

B&Wというメーカーは元々技術志向が強く、最新テクノロジーに意欲的です。イギリスでたった二人から出発した会社は、今やJBLと肩を並べるほどの規模に成長しましたが、今後もこのスタンスは変わらず、我々に新しい発想とテクノロジーを駆使した素晴らしいスピーカーを開発してくれることを期待したいと思います。