グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ



ホーム >  ブログ >  アキュフェーズ本社 新試聴室訪問

アキュフェーズ本社 新試聴室訪問


10月下旬に、横浜市在住のお客様宅にアキュフェーズ製品の納品と下取り品の引取りがありまして、場所を確認したらアキュフェーズ社から近くでしたので、商品をアキュフェーズ社に取りに行ったついでに最近話題になっている新試聴室を見学させていただきました。

従来の本社ビルのとなりは地元住民の集会場などがあったようですが、創業50周年を迎えるに当たって地主の方から「売ってもいいよ」という話があったそうです。そのあたりのいきさつもアキュフェーズ社が地元住民と如何に良好な関係を保っているかがうかがえる話であろうかと思います。
こうして2020年に5階建ての堅牢な第2本社ビルが完成いたしました。この社屋は流通倉庫が大半を占めており、あとは社員食堂と、最上階の5階に新試聴室があります。ただ社屋の設計当初は試聴室は構想段階だったようですが、齋藤重正会長(現相談役)の鶴の一声で設置が決まったようです。試聴室の設計・施工業者も一般のオーディオルームや録音スタジオやテレビ局のスタジオ等のプロの現場での実績が豊富な日本音響エンジニアリング㈱が行うことになりまして、日本一のハイエンドオーディオメーカーの日本最高レベルの試聴室を目指すことになりました。

アキュフェーズから出された要望は、モニタールームのような細かい音を聴き分けるだけではなく、誰が聴いても心地よく音楽が聴ける空間にしてほしいというものでした。
試聴室が計画されているフロアの図面を見て、日本音響エンジニアリングの担当者は天井も高く空間の広さを生かして、普段ではなかなか作ることができない理想の音響空間ができると思ったそうです。ただし、左右方向に比べて前後方向が長すぎるため、間仕切壁を新たに作り前室を設け、その天井内部に空調室内機と消音器を設置することで空調の低騒音化にも寄与しました。日本音響エンジニアリングの方もハイエンドオーディオメーカーのアキュフェーズの試聴室ということで、自社の設計ノウハウを存分に発揮できるとあって気合が入ったことでしょう。

この新試聴室はサイズでいうと巾5.2m、奥行8.5m、高さ3.2m(最高地点3.5m)で、約26畳ほどの空間です。有名な「石井式オーディオルーム」は巾1.18、奥行1.38、高さ1.0の比率が良いとされていますが、高さの比率が非常に高い「立方体」のような形状で、なかなか一般の家庭ではこの比率の部屋はないと思います。この比率では特定の定在波が発生しにくいというのが最大のメリットですが、日本音響エンジニアリングでは、録音スタジオや音楽ホール、映画館などプロの現場での設計・施工が豊富で、様々なサイズや比率の空間の中での施工ノウハウを膨大にお持ちで、またマニアのためのオーディオルームやシアタールームなど一般住宅での施工も数多く手掛けており、様々な空間で最適な環境を作り出してくれます。今回の試聴室でも、アキュフェーズ側の音質的要望をヒアリングしながら、細かい微調節を繰り返して理想の音響空間を作り上げていったようです。

実際に私が感じた印象は、「非常に静かな空間」ということでした。暗騒音がなく、部屋で話をしていても余分な響きがない実にナチュラルな空間という感じがしました。確かに空調の音などは全く聞こえませんでした。スタジオのモニタールームのような分析的な音ではなく、適度な響きの音楽ホール的な鳴り方をする素晴らしい空間でした。確かに「いつまでも音楽を聴いていたい」という気持ちになってしまう心地良さでした。

この試聴室にアキュフェーズが選んだスピーカーは、意外にも英国Fyne AudioのトップエンドモデルのF1-12でした。30㎝同軸2ウェイユニット採用のフロア型スピーカーで、1本あたりの重量が93㎏、税別ペア価格498万円というハイエンドモデルです。ファイン・オーディオは2017年創業のまだ新しいメーカーですが、テクニカルディレクターのポール・ミルズ氏はタンノイ社で辣腕をふるっていたスピーカーエンジニアで、ほかの主要メンバーもタンノイ出身者が多いのが特徴です。スピーカーユニットの基本構造はタンノイ譲りの同軸ユニットですが、エッジ形状や独自のバスレフポートシステム(ベーストラックス・トラクトリックス・ポート・ディフューザーシステム)等の新技術が投入されています。ファイン・オーディオのF-500シリーズは店頭でも聴きましたし、何セットか販売もしましたが、このスピーカーを聴いたのは初めてでした。エンクロージャーがB&W800シリーズ並みにラウンドしているのが印象的でした。またスピーカーベース部分は20kgにも及ぶ高剛性のアルミベースとなっており、低域の共振を抑え込む構造となっています。そのためか音色的には非常にニュートラルな感じがしました。B&Wほど分析的なところもなく、かといってタンノイのように情緒的になりすぎることもなく、あえて表現するとすれば音楽的に素直なサウンドであるという感じを受けました。アキュフェーズが求めた「心地良く音楽が聴ける」という意味においては、なるほどと納得するところがありました。ただしそれはスピーカーだけの特徴ではなく、この部屋の音響特性によるところが大きいことは言うまでもありません。
創業50周年を迎えるアキュフェーズにとって、この新試聴室は今後の製品開発にとっても実に有効な空間になると思います。従来の試聴室は第一本社ビルの中にあり、主に製品開発の際にテストしたり、製品開発の最終段階で試聴をしたりとモニタールームとして活用されてきましたが、今後は最終の音質検討は新試聴室へと移っていくのではないかと思います。オーディオ機器としてのポテンシャルを確かめるのと同時に、音楽再生装置としてのレベルの高さも検証していくことになるのだろうと思います。更にもう一つ重要な役割として、オーディオ評論家先生方やマスコミ・販売店等の業界関係者への製品発表の場として活躍していくものと思います。
そしてこの素晴らしい試聴室の誕生が、日本で数少ないハイエンドオーディオメーカーのトップランナーとして今後も邁進していくだろうと確信させてくれた今回の訪問でした。